レースの記録

県内全市町をめぐった国際ステージレース(2017〜2020年)の歩み

レースの記録 · 公開 2026-10-24

「栃木県庁」と刻まれた石碑の奥にそびえる高層の栃木県庁舎
宇都宮市の栃木県庁舎。手前の石碑に「栃木県庁」の文字。写真:Dick Thomas Johnson/CC BY 2.0

2017年から2019年にかけて、栃木県では毎年3月末に3日間の国際ステージレースが開かれていました。大会名は「ツール・ド・とちぎ」。公道を長い距離にわたって閉鎖し、県内の市町を次々に通り抜けるという、日本の自転車レースとしては珍しい形式をとった大会です。この記事では、当時公表されていた大会概要や報道、百科事典の記述をもとに、その歩みを整理します。

本サイトは大会の主催者・運営者とは無関係です。大会を運営したツール・ド・とちぎ実行委員会は2020年7月30日に解散しています。

大会の構想:2年で県内25市町をめぐる

栃木県は14市11町、合わせて25の市町で構成されています。この大会の最大の特徴は、2年分の大会を一組として、その間に県内の全25市町をコースに組み込むという設計でした。第1回(2017年)と第2回(2018年)で県内を一巡し、第3回(2019年)と第4回(2020年予定)で別のルートを使って二巡目に入る、という計画です。

日本の公道レースは、交通規制の難しさから、周回コースを何度も回る形式が主流です。これに対して、ある町をスタートして別の町にフィニッシュする「ラインレース」は、規制区間が長く、関係する警察署や自治体も多くなります。それを県全体で毎年実施したことが、この大会が国内の自転車関係者から注目された理由でした。

大会の目的として当時掲げられていたのは、自転車競技の盛んな県としての情報発信、開催地域の歴史・文化・食を生かした観光誘客、スポーツを通じた健康づくり、そして多くの県民が運営に関わることによる地域への愛着の醸成、といった点です。栃木県には宇都宮市を拠点とするジャパンカップサイクルロードレースの長い歴史があり(関連記事)、地域密着型のプロロードチームも活動していることから、その延長線上に県全域を舞台にした大会が構想されたと言えます。

運営体制とレースの格付け

当時の大会概要によれば、主催は特定非営利活動法人ツール・ド・とちぎの会、主管はツール・ド・とちぎ実行委員会、競技の主管は公益財団法人日本自転車競技連盟と栃木県自転車競技連盟でした。運営には県や市町、企業、ボランティアが参加し、「オールとちぎ」の体制がうたわれていました。

レースは国際自転車競技連合(UCI)の公認を受け、大陸別ツアーのひとつであるUCIアジアツアーの「2.2」クラスに位置づけられていました。最初の「2」はステージレース(複数日にわたるレース)、後ろの「2」はクラスを表し、国内外のコンチネンタルチームなどが出場できる格付けです。各チームの人数は大会規則で定められ、第1回の概要では1チームにつき選手6名と監督・メカニック・マッサー各1名という構成が示されていました。

4回の大会の概要

回開催期間形式主な特徴
第1回2017年3月31日〜4月2日3日間・3ステージのラインレース国内10・海外4の計14チームの出場予定で発表。日光市から足利市、茂木町から那須町、矢板市から宇都宮市へ。
第2回2018年3月23日〜25日個人タイムトライアル+ロードレース2日初日に渡良瀬遊水地で7.2kmの個人タイムトライアルを追加。総走行距離は約259km。一般参加のタイムトライアルも同日に実施。
第3回2019年3月22日〜24日タイムトライアル、周回レース、ラインレース日ごとに異なる形式を組み合わせる構成に。初日は真岡市の井頭公園、2日目は矢板市周辺の周回、3日目は那須烏山市から足利市へ。
第4回2020年3月20日〜22日(予定)同上大田原市での約3kmのタイムトライアル、那須塩原市〜那須町の約120km、小山市〜宇都宮市の約145kmを予定していたが中止。

各ステージの詳しいスタート・フィニッシュ会場と通過市町は「4大会のコースを振り返る」にまとめています。

形式の変化

第1回は3日間すべてが町から町へのラインレースでした。第2回からは初日に個人タイムトライアルが加わり、第3回以降は「タイムトライアル」「周回レース」「ラインレース」と日ごとに性格の異なるレースを並べる方式になりました。観客にとっては、選手が一人ずつ走るタイムトライアル、同じ場所を何度も通過する周回レース、一度きりの通過を待つラインレースと、三つの観戦スタイルを一つの大会で体験できる構成です。形式ごとの違いは「個人タイムトライアルとは」と「沿道観戦の場所選び」で解説しています。

地元チームと一般参加

第2回の概要では、地元栃木県から宇都宮ブリッツェン、那須ブラーゼン、栃木県選抜チームの出場が予定されていました。また、プロのレースと同じ会場を使い、小学6年生以上の一般参加者が走る個人タイムトライアル部門が設けられていた点も特徴です。沿道や会場では各市町のイベントが開かれ、観光と結びつける試みとして、写真を投稿して県内をめぐる「サイクルフォトラリー」も実施されました(関連記事)。

第4回大会の中止と実行委員会の解散

2020年3月に予定されていた第4回大会は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けたUCIからの要請により中止されました。中止発表の前には、スタート・フィニッシュ会場への一般の入場を見合わせ、沿道での応援も控えるよう呼びかけ、インターネットでの生中継を予定するなど、縮小しての開催も検討されていた経緯があります。

その後、ツール・ド・とちぎ実行委員会は2020年7月30日付で解散したと告知されました。県内全市町を2年で二巡するという当初の計画は、二巡目の後半を残したまま終了したことになります。

この大会が残したもの

大会そのものは4回目を迎えることなく終わりましたが、残したものは少なくありません。県内の多くの市町が、交通規制、沿道の安全確保、会場運営を経験しました。交通整理にあたるボランティア(交通立哨員)の募集も毎年行われ、多くの県民が運営側として大会に関わりました。広い範囲の公道を一時的に閉鎖して国際レースを走らせるには、警察、道路管理者、自治体、地域住民との調整が欠かせません。その仕組みについては「自転車レースの交通規制はどう決まるのか」で詳しく説明しています。

また、レースが通過した道の多くは、ふだんは誰もが走れる一般道です。日光の山あいの道、那須の高原、渡良瀬遊水地の周回路など、選手たちが走ったエリアは、いまもサイクリストにとって魅力的なフィールドです。本サイトの「走る」カテゴリーでは、そうした道を安全に楽しむための情報をまとめています。

結果と記録を調べるには

各ステージの勝者や総合順位について、本サイトでは出典を確認できたもの以外は掲載していません。記録を調べる際は、Wikipedia日本語版や英語版の大会記事と、そこに示された出典(UCIの公式記録や当時の報道)を確認するのが確実です。